家と庭と犬とねこ

著:石井桃子 (河出書房新社)

石井桃子さんの生活感溢れるエッセイの数々が再編集され、本書を含め新装版が次々と刊行されている。翻訳では『クマのプーさん』『ちいさなうさこちゃん』『飛ぶ船』『ピーターラビット』等々、創作では『ノンちゃん雲に乗る』『ちいさなねこ』等々、子供たちに親しまれつづける数々の作品を発表し、戦後の日本児童文学界のフェアリーゴッドマザーと称された石井さん。本書ではその素顔にふれることができる。編集者から一転、宮城の山中で農業に従事した話、亡き親友から受け継ぎ、昭和14年から生涯暮らしと仕事の場となった荻窪の家や近所の話、井伏鱒二さんをはじめ作家たちの話などが満載。「ただ、わたしが単純で子供っぽく、自分の身につけた物や事でないと、着たり、料理したり、話したりできない種類の人間だったから」(「かなしいのら着」より)。石井さんと同じ杉並で時間を過ごした人々にも、たんたんとまっすぐな石井桃子的生き方に共感する現代の杉並に暮らす人々にもおすすめの一冊だ。
おすすめポイント
石井桃子さんは、子供のための読書環境づくりに先駆的な役割も果たした。石井さんたちの呼びかけは家庭文庫運動となって全国に普及、さらに児童図書館設立の運動へとつながった。昭和33年、荻窪の自宅の一室に、家庭文庫「かつら文庫」を開設。以降、長年にわたって、石井さん自ら読み聞かせなど、本を中心に子供たちと楽しむ教室を主宰した。石井さんたちの活動は、昭和49年「東京子ども図書館」(中野区江原町 )の開設に結実。現在、荻窪の「かつら文庫」はその分館として活動中。当時と変わらず、石井さんの作品、また世界中の児童文学の名作が子供たちを出迎えている。

DATA

  • 取材:井上直
  • 掲載日:2013年12月09日