5現在の学校の取り組みと地域への広がり

大人たちの働きかけが生徒の自主性を育てる-國光敏幸校長

現在、高井戸中のアンネのバラは、学校・生徒・地域が協力しあって育てている。國光敏幸校長を中心にした学校の取り組みと、地域に広がる「アンネのバラ・サポーターズ」の活動を紹介する。

「いいことは、どんどんやる」
今回、アンネのバラの歴史を記事にしたい、と高井戸中を訪れた時、國光校長は笑顔で取材協力を快諾してくれた。「どうぞ、お願いします。生徒と地域が、がんばって育てているアンネのバラは高井戸中の財産です。」國光校長のモットーは、「いいことは、どんどんやる」ということ。その姿勢で、自ら率先して学校便りを書き、生徒や保護者に自分が大切だと思うことを発信していた。アンネのバラの活動も積極的に取り組み、それまで土曜日の半日だけだった年2回の一般公開日を1週間に延長。学校予算をやりくりしてスプリンクラーを設置した。2012年3月には、校内で映画『アンネの追憶(制作:イタリアン・インターナショナル・フィルム)』の先行上映会を行った。

自ら作ったリーフレット
そんな國光校長には一つの思いがあった。アンネのバラを高井戸中に植えた当初の子どもたちや先生の心を、どう守り引き継いでいくのか、という問題意識だ。「あって当然の存在になってしまってはいけない。生徒たちに、もう一度原点に戻ってバラが学校にある意味を再確認してほしいと、創立65周年記念事業でリーフレットを作りました。」2013年(平成25年)3月に発行した『アンネのバラと高井戸中学校のあゆみ』は、写真、記事、レイアウトを國光校長が手掛けた。「学校司書さんに協力してもらって、私が作りました。もともと新聞部だったので。」と國光校長は微笑む。
「押し付けではなく生徒たちが自主的に取り組むことが大事です。でも、ほったらかしていては子どもたちの意識は育たない。大人たちが機会あるごとに働きかけなければ。」國光校長は、「アンネのバラは高井戸中だけのものではない」という。「このバラは平和教育、人権教育のシンボルです。大人と子どもが協力して、区内外に発信していきたい。」

年2回の一般公開

高井戸中では年2回、アンネのバラを一般に公開している。毎年5月と10月の公開期間中には区内外から多数の人が訪れ、マスコミ報道されることも多い。現在、高井戸中に植えられているバラは120株を超える。校門から校舎の入り口まで続く花壇に咲く大輪のバラは、真紅の蕾(つぼみ)から、オレンジ、黄色、ピンクへと咲きながら色を変え、訪れる人を魅了している。また、同校では全国の学校に生徒間でアンネのバラを贈呈する活動も積極的に行っている。

高井戸図書館との連携

隣接する区立高井戸図書館では、年2回の一般公開期間に合わせてアンネ・フランクやアンネのバラの関連図書を特別展示している。高井戸中と図書館は同じ敷地内にあり、校庭側の窓辺からはアンネのバラを臨める。また、高井戸中2階の学校図書館に常設してある「アンネコーナー」の展示にも協力。バラ公開期間外でも、1階のヤングアダルトコーナーでは関連図書を豊富に揃え、生徒や区民が気軽に利用できる工夫をしている。

地域の「アンネのバラ・サポーターズ」-代表:鳥生千恵さん

主役は子どもたち
2004年(平成16年)に生徒によるアンネのバラ委員会が発足した時からバラ栽培に協力しているのが、地域の協力組織「アンネのバラ・サポーターズ」だ。PTA役員OBを中心に、保護者、近隣のバラ園芸家など多彩なメンバーが参加している。
発足当初から活動に参加してきた代表の鳥生千恵さんは、元・PTA会長。「当時、事務職員の三浦さんと小林さんが懸命にバラの手入れをしているのを見て、何とか生徒たちで世話ができないか、と。でもバラ栽培には専門的な園芸知識が必要で、どうしても大人の手助けがいると考えたのです。」
現在、月1回の生徒の作業をサポートする他、メンバーであるバラの専門家・川池道代さんを講師に、定期的にバラ栽培の講習会を実施。季節ごとに必要なバラの手入れを行っている。「バラを育てている中で、子どもたちの成長も実感できる。それが活動の原動力です。大人が全部やってしまっては、生徒が主役にならない。だから堆肥作りや芽つぎなど専門的な作業もすべて一緒にやります。」

杉並清掃工場のアンネのバラ園計画
今、鳥生さんは高井戸中のアンネのバラを、地域から発信していきたいと考えている。「読書の森公園に花壇が作られるなど、杉並区内でも平和と人権尊重のシンボルになっているアンネのバラですが、もっと多くの人に知ってほしい。大人たちが、がんばって区内外に広めていくことで、子どもたちを励ましていきたいのです。」
2013年12月17日のアンネのバラ委員会では、1枚のプリントが配られた。現在、建替え中の杉並清掃工場にアンネのバラを植える計画があるというニュースだ。建設計画に参加している高井戸中出身の住民委員からの提案で、清掃工場の北西側の広場にアンネのバラの花壇を作ることが決まっている。アンネのバラ・サポーターズも生徒と一緒に、この計画を応援しようと考えている。

アンネのバラ・サポーターズ代表の鳥生千恵さん、委員会と堆肥作りの様子

アンネのバラ・サポーターズ代表の鳥生千恵さん、委員会と堆肥作りの様子

40周年を迎えたアンネのバラ

高井戸中のアンネのバラは2015(平成27)年に取り組み開始から40周年を迎えた。
それに先立ち2014(平成26)年6月には、区の平和のシンボルを大切にしていこうと、中央図書館に高井戸中からアンネのバラが株分けされ、花壇が作られている。校内での活動も引き続き盛り上がっており、生徒有志でつくるアンネのバラ委員会のメンバーは70名を超えた。
2015(平成27)年5月16日、校内で記念式典が行われた。全校生徒が参加し、1975(昭和50)年3月にバラの招致活動をスタートさせた当時の生徒や、アンネのバラ・サポーターズのメンバーなど、ゆかりの人々も多数列席した。式典ではアンネのバラ委員会の生徒がバラの歴史を紹介。これからもバラを守り続ける決意を表明した。そして高井戸中の生徒とアンネの父オットー・フランク氏との橋渡し役となった大槻道子さん(聖イエス会・スミルナ教会牧師)が、奈良県から来校して記念講演を行なった。大槻さんは「オットー氏から贈られた3本のバラが約40年の時を経て、見事なバラ園になったのを見て感動した。」と語り、オットー氏とのエピソードなどを紹介した。また式典を記念して、1976(昭和51)年にアンネのバラを植えた生徒たちが作った立看板のレプリカが作成され、高原美和子さんら当時の生徒が除幕式に立ち会った。
学校と地域が守り続けたアンネのバラは、今では校庭に200株近くまで増え、今年も美しい花を咲かせている。

立看板レプリカと卒業生の高原美和子さん(写真提供:高井戸中学校支援本部)

立看板レプリカと卒業生の高原美和子さん(写真提供:高井戸中学校支援本部)

DATA

  • 取材:内藤じゅん
  • 撮影:みっこ
  • 掲載日:2014年02月24日
  • 情報更新日:2015年05月16日